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激甚災害時の心のケア -すべての学生諸君ができること- (2024年2月5日)

激甚災害時の心のケア -すべての学生諸君ができること-
コロナ禍がやっと一段落し、ようやく「普通の生活」が戻るかのようにみえた令和6年1月1日、能登半島地震が起きました。多くの方が亡くなり、家を失い、避難生活を続けてもう1か月がたちますが、いまだ水道や道路は寸断され、復興の兆しはみえてきません。大切なご家族や友人を亡くされた方には心からのお悔やみを、家や財産を失った方には心からのお見舞いを申し上げます。私は災害メンタルヘルスを大学で教えており、災害派遣精神医療チーム(DPAT)として能登地震の支援にもいってきた経験から、ここで学生の皆さんにむけて災害時のこころのケアのお話をさせていただきます。

このような激甚災害が起こると誰の心にも問題が生じます。まず被災された方には災害直後の急性期に強い不安と恐怖から不眠や体の症状が生じます。その後皆でこの災害を乗り越えようとがんばる気持ちになります。しかし1か月ほどたって急性期をすぎると、疲労感、失った人や物への悲しみ、個々の被害の程度の違いに対する罪悪感や怒りが生じてきます。二次避難で生活が安定する中長期になると、こころは少しずつ平常に戻っていきますが、このこころの回復までの時間は、喪失体験や生活適応の度合いによって個人でかなりの違いがあり、数年かかる方もおられます。今回の地震は、被災地へのアクセスやライフラインの復旧が困難という特徴から、孤立や格差の問題が大きく、通常よりこころの回復までの時間が長くかかることが心配されます。

被災地出身の学生の皆さんは、このような心の動きは誰でも生じる正常なことと知っておいてください。けれどもこの動きがこころの病気にならないために、適切なケアが必要です。まず大切な人と連絡を取り、気持ちを通わせ、互いにねぎらいあうこと、できる範囲の平時の生活を心がけること、例えば食事や規則正しい睡眠を可能な限りとること、安全な生活と健康を一番にして、早く被害を回復させようと頑張りすぎないことを心がけてください。やけになってお酒を飲んだりすると余計に不眠が悪化しますので避けてください。各大学では被災地出身の学生さんへの支援を始めているはずです。経済的困窮やこころの問題などの悩みが生じていたら、早めに学生相談や学生生活課、保健管理センターなどに相談してください。

被災をしていない学生さんは、この災害に接して何か支援したいと思っているかもしれません。まだアクセスが困難な状況ですので焦らずに現場にいかずとも、ご自身ができる支援をしてください。被災者へのこころのケア(サイコロジカルファーストエイド)の鉄則は、「みる」「聞く」「つなぐ」とされます。「みる」は安全を確認し、困っている人をみつけること、「聞く」は、困っている人によりそい、その気持ちと必要なもの、ことをじっくり聴くこと、「つなぐ」は、困っている人が本当に必要とするものを提供できる資源につなげることを意味します。例えば被災地の情報や支援NPOの活動を共有し、被災地出身の友人に声をかけ、話を聞いて必要な支援情報があれば、それを検索して紹介することも立派なこころのケアです。

最近PTSG(災害ストレス後の心的成長)という概念がいわれるようになっています。これは、災害で悲惨な体験をしても、PTSDにならずにむしろ災害を起点にして人生を見直し、前向きに生きる人たちがいることを指します。今被災地で活動しているNPOや支援者には、学生の頃に阪神・淡路大震災で、あるいは東日本大震災で被災し、その悲しみを乗り越えるべく災害支援活動を始めた方も多くいます。また大学の災害研究者の中にも、同じような災害を起こさないために、研究の道を選んだ方もいます。毎年起こる日本の災害をどう考え、被災者の心にどう寄り添い、今後どう立ち向かうか、悲劇を乗り越えて人生を見つめ直すことは、今後を生きるすべての学生諸君ができることです。

 

令和6年1月31日
筑波大学医学医療系災害・地域精神医学 太刀川弘和
 

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